法律よもやま話

(その9)債権法改正②「時効(その2)」

2021年1月7日

 今回は、前回に引き続いて、民法の債権法の改正のうち、時効に関する改正についての説明(その2)です。

1 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

 例えば、自動車で交通事故を起こして人をケガさせたり、ひどいと死亡させてしまうことがあります。また、医師が手術でミスをして、患者に障害が残ったり、場合によっては死に至らしめることもありえます。

 このように、不法行為(交通事故の場合)や契約上の債務不履行(医師が医療契約にもとづいて手術をする場合)によって人の生命や身体が侵害された場合は、被害者を保護する必要性が強く、また、被害者は、通常の生活を送ることも困難な状況に陥り、時効完成を阻止する措置を速やかにとることも出来ません。

 そこで、このような場合に被害者に発生する損害賠償請求権については、消滅時効期間を長期化する観点から、それが債務不履行にもとづく場合は、権利を行使することができるときから10年という一般の時効期間を20年に延長し(167条)、不法行為にもとづく場合は、旧法では損害及び加害者を知った時から3年とされていた時効期間を5年に延長しました(724条の2)。

2 長期の権利消滅期間

 旧法724条後段には、不法行為による損害賠償請求権は不法行為の時から20年を経過した時に消滅するという規定があり、この規定の性質について、最高裁は、消滅時効ではなく、「除斥期間」を定めたものだとしていました。除斥期間は、消滅時効と違って、①時効の中断や停止の規定が適用されないため、期間の経過による権利の消滅を阻止できず、また、②消滅時効であれば、その適用に対して信義則違反や権利濫用に当たるとの反論ができるのに対して、除斥期間ではそれができないと解されており、被害者保護に欠けるという批判がありました。

 そこで、改正法は、この長期の権利消滅期間は、除斥期間ではなく、消滅時効の期間であることを明記しました(724条2号)。これにより、被害者は、加害者に対する損害賠償請求権の時効による消滅を防ぐための措置をとることが可能になり、また、加害者からの消滅時効が完成したとの主張に対して、それは信義則違反や権利濫用に当たるので認められないという反論をすることが可能になりました。

井奥圭介

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