私と囲碁 | 2024年9月27日
このところ実戦不足でネットや新聞の国際戦の棋譜を観ることが多くなり、AI流の戦法によく出てくる大模様作戦を下手の猿真似で展開し、中に入ってくる相手の石を包囲してあわよくばこれを捕獲し、さもなくば最小の生きを強要して当方の地合を大きく確保する戦略をとるのが楽しみになっている。
しかし現実はそうは問屋が下ろさない。序盤から中盤にかけては作戦通りに進み、さあいらっしゃいと待ち受ける。相手も高段者、こちらの意図を察知してあまり深くは入ってこないのになんとか大模様の中に追い込み猛攻を仕掛ける。たまにはこれが奏功し相手の大石に2眼ができるかどうかの生死をかけた終盤戦に突入する。ここで双方の地合いを冷静に計算し、相手を生かしてもよいと判断すればよいのに騎虎之勢が止まらず多少無理筋ながら最後のとどめを刺す手を選ぶことが多い。しかしこれが敗着となり無念の投了となることしばしばである。
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弁護士の高段者揃いの王座研究会での実戦で何回かこうした苦い経験をして反省しきりの本年7月、たまたま書斎の整理をしていたところ、呉清源著(編集三堀将)「勝碁の決め方」という棋書を発見した。見ると1982年(昭和57)の発行であり、呉先生はじめトップ棋士の実戦10局を題材に、「勝碁を勝ち切るむずかしさ」とこれを克服する心構えと要諦を指南する新書版の講義録である。そして40年も前のこの本に私の書き込みがところどころに記されているではないか。当時5段程度の棋力であったから、呉師の教えも理解はできたであろうが、実際に身に着けることは容易でないのが囲碁の難しさ深さであろう。
改めてこの本に接し、呉清源師が語る「勝ち碁を勝ち切る妙諦」の素晴らしさに感嘆し、是非この教えを身に着けたいと思うこの頃である。以下にこれを紹介したい。
1 勝碁は危うきに近寄るな
2 好球必打せよ
3 確実にトドメを刺せ
4 勝碁なら挑発にのるな
5 狙いすまして強打せよ
6 敵の勝負手の上を行け
7 細碁なら一歩もひくな
8 チャンスは捕らえて逃がすな
9 わきみ運転は失敗のもと
10 心の動揺が尾をひく
そして考えてみると、この10訓は、囲碁だけでなく本業である弁護士の仕事にも通底する心得であることに気づくのである。
(ニュースレター令和6年残暑号より)