弁碁士の呟き

囲碁雑録(5)-1986年『ハンさんの「宇宙流」』②

| 2017年5月26日

(①より続く)

ハンさんとの再会

さて、話は戻る。
親善大会の会場には、10時前すでに7、80人を越す碁打ちが集まり、開会を待っていた。
やがて外国選手の入場である。
世界チャンピオンの陳嘉鋭さんを始め31か国の選手が順位に従いずらりと対局席につき、吹田市民を中心とする日本側と対峙する。
弁護士仲間では、畑さんと服部明義さんが腕を撫している。
ホンコン、中国、韓国などのトップクラスには、こちら側も府代表クラスが相手になっている。
私が世話役から指定された席にはオーストラリア選手権者のサンディーハン六段が座っていた。世界大会では5勝3敗で11位。

 思わず双方の口から「やあ」「ハロー」と懐かしさを込めた嘆声が発せられ、早速握手。
というのも、実は3年前のこの会でたまたま一度手合わせした仲だったのである。
あの時は、延々300手を超えるコウ争いの死闘を演じて、惜しくも半目負けの結果であったから、忘れようにも忘れられない相手である。
ハンさんの方もやはり覚えていてくれたのだった。
前回の懇親会の場で何時の日にかの再会を約していたが、なんと幸運にも再度の挑戦の機会が巡ってきたのであった。

 ハンさんは、今年44歳オーストラリアに移住して12年になるという韓国系の紳士であり、会社役員をしているとのことである。
浅黒い引き締まった東洋風の顔付で、誠実そうな人柄のにじむ人物である。
たしかその棋風は力強く、私よりは一枚上の感じであった。
3年前たどたどしい英語でなんどか意思疎通だけははかったものの、お互いに深く知り合ったわけでもないのに、まるで百年の知己のような親しさを覚えるのは、それこそ「手談」と呼ばれる囲碁のお蔭でなくてなんであろうか。
これだからやめられないのである。

 とにかく絶好の敵討ちのチャンスである。
あれから3年こちらも少しは腕を上げたとの自負もある。
さあ対局だ。

(③へつづく)

赤沢敬之

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