弁碁士の呟き

私と囲碁(27) 棋譜並べ①ー高川秀格全集

| 2015年1月11日

 囲碁の上達には、一に詰め碁、二に棋譜並べそれに実戦の経験が欠かせないと言われる。この三つの実践によりヨミの力や大局観が養われるのだが、詰め碁の勉強はあまり難しくない問題に取り組むのがよいとされるようだ。私の場合もやはり難解な詰め碁に本格的に取り組むのが苦手で、囲碁雑誌の付録の問題集などを通勤の車中でヨムのが通常であった。20年程前頃には時折出勤電車でお逢いする石井新蔵9段から「よく勉強されていますね」と声をかけられたものだったが、何時の日か専ら文庫本の小説に変わってしまった。

 もうひとつの勉強方法である棋譜並べの方は、昭和57年以来、高川秀格全集を手始めに多くの全集に取り組んできた。同全集は日本棋院から昭和54年に発刊されたとき橋本誼9段の推薦で入手したのだったが、当時仕事が忙しく書庫で眠っていた。その後「囲碁大辞典」の日課が軌道に乗り出した時分の昭和57年になり、ひとつ本格的に棋譜並べに取り組んでみようかと思い立ち、ベッドの脇に碁盤と全集を置いて、目覚めのときと就寝前のいずれかに1日1局を並べることにした。いわゆる「枕上の教え」である。本因坊9連覇の偉業を成し遂げられた高川先生は、私の高校(旧制高津中学)の大先輩で親近感があるだけでなく、その棋風が穏やかな中に確かな大局観を秘めているとの評価なので、下手なアマチュアにも入りやすく参考になると思ったからである。

 全集は8巻、大正13年から昭和44年までの1118局が収録されている。これを毎日盤上に駆け足で1回並べるだけで、深く検討することもないのだから、どの程度身に付くかはお構いなしの「作業」であったが、昭和57年9月から63年2月までで無事完了した。そして、この間昭和59年11月から、並行して「坂田栄男全集」への挑戦に移ったのだが、棋譜並べがある程度積み重なると、不思議なことに自分が手本としている棋士の碁風にいつしかなじみ、その影響を受けていると感じることがある。要するに、単なる猿真似ではあるものの、いずれの日にかそれが量的変化から質的変化に転ずる日もあろうかと期待してきたものであった。(続)

赤沢敬之

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