法律よもやま話

(その10)債権法改正③「法定利率」

2021年5月3日

今回は、民法の債権法の改正のうち、法定利率に関する改正についての説明です。

1 5%から3%に引き下げ

   民法では、人にお金を貸して利息をもらうことは決めていたが利率は決めていなかった場合とか、売買代金を期限までに支払わなかったために遅延損害金が発生した場合などの利率は法定利率にしたがうとされています。

   この法定利率は、これまで年5%とされていました。しかし、定期預金の金利が年6%を超えていたバブルの時代ならともかく、定期の金利が0.01%というような昨今の市中金利の状況に比べて、5%は高過ぎるという意見が強かったため、改正民法では3%に引き下げられました(404条2項)。

2 緩やかな変動制の採用

   しかし、市中金利は常に変動しますので、3%の法定利率もいつかまた不都合になる可能性があります。

   そこで、改正民法は、3年毎に見直す時期を設けて、過去60箇月の短期貸付けの平均利率(これを「基準割合」と言います)に、その前に利率を変えた時から1%以上の増減があった場合は1%単位で平均利率を上げ下げするという緩やかな変動制を採用しました。

3 法定利率の基準時

   このように法定利率が変動するということになりますと、いつの時点の利率を適用するのかが問題になります。

   この点、改正民法は、利息については利息が生じた最初の時点、遅延損害金については債務者が履行を遅滞した最初の時点の法定利率によることにしました(404条1項、419条1項)。

   したがいまして、例えば交通事故を起こして人にケガをさせたような不法行為の場合は、不法行為時(事故を起こした時)に債務者は直ちに履行遅滞になると解されていますので、不法行為時の法定利率によって遅延損害金が計算されることになります。

   これに対して、例えば賃貸人が借家の雨漏りの修繕を怠ったために賃借人の家財道具が水浸しになったというような債務不履行の場合は、債権者が履行の請求をした時から履行遅滞になりますので、請求時(賃借人が賃貸人に家財道具がダメになった損害の賠償を請求した時)の法定利率によって遅延損害金が計算されることになります。

4 中間利息の控除

   例えば、交通事故でケガをして後遺障害が残ったために将来十分に働けなくなったことによる損害(これを「逸失利益」と言います)の賠償を請求する場合は、将来に発生する損害の賠償金を前もって支払わせることになりますので、その間の利息相当額が控除されます。これを「中間利息の控除」と言います。

 この中間利息の控除の計算にも、従来、法定利率が用いられていましたが、明文の規定がなかったため、改正民法はそのことを明文で定めるとともに、適用する利率は損害賠償請求権が生じた時点(上の例では事故時)の法定利率によると定めました(417条の2、722条1項)。

井奥圭介

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