法律よもやま話

(その18)原告全員勝訴のノーモア・ミナマタ訴訟判決

2024年4月27日

判決後の記者会見で報告する筆者

1 昨年9月27日に、私が弁護団の一員として取り組んできたノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟について、大阪地方裁判所の判決が出ました。結果は、原告128名全員を水俣病と認め、被告の国、熊本県とチッソ㈱に、原告一人当たり275万円の損害賠償を命じる画期的なものでした。
2 このノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟は、主に昭和30年代から40年代にかけて熊本県や鹿児島県の不知火海沿岸で生活し、その後、近畿、中京や中国地方に移り住んだ人が、現地で生活していた当時にチッソの工場排水に含まれていた水銀に汚染された魚介類を食べたことが原因で水俣病にかかったことによる損害の賠償を求めて、大阪地方裁判所に起こした裁判です。
3 裁判で最も問題になったのは、原告らの病気の原因がチッソの流した水銀だったかどうかという因果関係の問題でした。なにしろ、原告らがチッソの水銀に汚染された魚介類を食べて水俣病にかかったのは今から40年以上前のことですので、そのことを、今、直接証明することは不可能です。そこで、我々弁護団は、“疫学的因果関係”という考え方を採用すべきであると主張しました。“疫学”というのは、もともとは病気の原因を明らかにしてそれに対する対策を立てることを目的とする学問ですが、これを公害裁判の因果関係の立証に応用したのがこの“疫学的因果関係”の考え方です。水俣病は、“四肢末梢優位の感覚障害”と言って、四つの手足の末端にいくほど感覚がにぶくなるという症状が特徴ですが、そうした症状がある時期に不知火海沿岸で生活していた人だけに高い割合で見られる、だとすれば、その原因は、そうした人だけに共通の事情つまりチッソの水銀に汚染された不知火海産の魚介類を大量に食べたこと、それ以外には考えられない、したがって、原告がその時期に不知火海産の魚介類を食べ四肢末梢優位の感覚障害を示しておれば、その原因は原告が食べた不知火海産の魚介類に含まれていたチッソの水銀だと考えるべきである、と主張したのです。
 大阪地裁は、この“疫学的因果関係”の考え方を全面的に認めました。そのことが、原告全員勝訴の判決を導く上で大きな力になったのです。
4 法廷で判決の言い渡しを聞いた原告の皆さんは、長年の苦労が報われたと、涙を流して喜びました。裁判所も捨てたもんじゃない、司法は生きている、と思えた瞬間でした。
5 しかし、残念ながら、この画期的な判決に対して被告らは控訴し、今度は大阪高等裁判所で裁判が続くことになります。公害発生から70年以上経ってもまだ未救済の患者が存在する水俣病問題、早期の解決が強く望まれます。引き続いてのご支援をよろしくお願いします。

井奥圭介

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