法律よもやま話

アーカイブ:2021年

(その11)債権法改正④「賃貸借」

2021年9月1日

 今回は、民法の債権法の改正のうち、賃貸借についての説明です。賃貸借に関しても、以下のとおり、いくつか注目すべき改正が行われました。

1 賃貸借の期間
 賃貸借の期間は、以前は、借地や借家を除いて、最長20年とされていました。しかし、  現代では、例えば太陽光発電用の土地の賃貸借などのように、20年以上の期間とする現実的ニーズもありますので、改正民法では最長50年に伸ばされました(第604条)。

2 賃借物の修繕
 改正前の民法では、借家などの賃借物を修繕する必要が生じた場合は、賃貸人が修繕義務を負うと規定するだけで、賃借人の方で修繕することを認めた規定はありませんでした。
しかし、これでは、いくら言っても賃貸人が修繕をしてくれない場合、賃借人は困ることになります。
そこで、改正民法は、①賃借人が賃貸人に修繕が必要なことを通知したか、賃貸人がそのことを知ったのに、相当の期間内に修繕をしないときや、②急迫の事情があるときには、賃借人の方で修繕することを認めました(第607条の2)。

3 賃貸人の地位の移転
 土地や建物などの不動産が人に賃貸されたまま売買等されることがありますが、不動産の賃貸人の義務(賃借人に土地や建物を使わせる義務)は所有者であれば履行できますので、以前から、不動産の譲渡人と譲受人の間で合意をすれば、賃借人の承諾がなくても、賃貸人の地位は譲渡人から譲受人に移転すると解されていました。
そこで、改正民法は、この考え方を条文にし、賃貸借の対抗要件(建物の引渡し等)を備えていない賃貸不動産が譲渡された場合には、譲渡人と譲受人の合意で、賃借人の承諾無しに、賃貸人の地位を移転でき(第605条の3前段)、賃貸借の対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡された場合には、譲渡人と譲受人の合意も要らず、当然に賃貸人の地位が移転する(第605条の2第1項)と規定しました。
なお、どちらの場合も、敷金の返還義務は、賃貸人の地位の移転に伴って、譲受人に引き継がれます(第605条の2第4項、第605条の3後段)。

4 賃貸借終了時の賃借人の義務
 賃貸借が終了した際に、賃借人は賃借物を借りた時の状態に戻して返さなければなりませんが、この原状回復義務の内容について、改正民法は、通常の使用方法によって生じた賃借物の損耗や経年変化は含まれないことを明文化しました(第621条本文)。
また、賃借人が賃借物に附属させた物がある場合は撤去しなければなりませんが、分離することができない物や分離するのに多額の費用を要する物は撤去しなくてもよいと規定しました(第622条、第599条第1項但し書)。

井奥圭介

(その10)債権法改正③「法定利率」

2021年5月3日

今回は、民法の債権法の改正のうち、法定利率に関する改正についての説明です。

1 5%から3%に引き下げ

   民法では、人にお金を貸して利息をもらうことは決めていたが利率は決めていなかった場合とか、売買代金を期限までに支払わなかったために遅延損害金が発生した場合などの利率は法定利率にしたがうとされています。

   この法定利率は、これまで年5%とされていました。しかし、定期預金の金利が年6%を超えていたバブルの時代ならともかく、定期の金利が0.01%というような昨今の市中金利の状況に比べて、5%は高過ぎるという意見が強かったため、改正民法では3%に引き下げられました(404条2項)。

2 緩やかな変動制の採用

   しかし、市中金利は常に変動しますので、3%の法定利率もいつかまた不都合になる可能性があります。

   そこで、改正民法は、3年毎に見直す時期を設けて、過去60箇月の短期貸付けの平均利率(これを「基準割合」と言います)に、その前に利率を変えた時から1%以上の増減があった場合は1%単位で平均利率を上げ下げするという緩やかな変動制を採用しました。

3 法定利率の基準時

   このように法定利率が変動するということになりますと、いつの時点の利率を適用するのかが問題になります。

   この点、改正民法は、利息については利息が生じた最初の時点、遅延損害金については債務者が履行を遅滞した最初の時点の法定利率によることにしました(404条1項、419条1項)。

   したがいまして、例えば交通事故を起こして人にケガをさせたような不法行為の場合は、不法行為時(事故を起こした時)に債務者は直ちに履行遅滞になると解されていますので、不法行為時の法定利率によって遅延損害金が計算されることになります。

   これに対して、例えば賃貸人が借家の雨漏りの修繕を怠ったために賃借人の家財道具が水浸しになったというような債務不履行の場合は、債権者が履行の請求をした時から履行遅滞になりますので、請求時(賃借人が賃貸人に家財道具がダメになった損害の賠償を請求した時)の法定利率によって遅延損害金が計算されることになります。

4 中間利息の控除

   例えば、交通事故でケガをして後遺障害が残ったために将来十分に働けなくなったことによる損害(これを「逸失利益」と言います)の賠償を請求する場合は、将来に発生する損害の賠償金を前もって支払わせることになりますので、その間の利息相当額が控除されます。これを「中間利息の控除」と言います。

 この中間利息の控除の計算にも、従来、法定利率が用いられていましたが、明文の規定がなかったため、改正民法はそのことを明文で定めるとともに、適用する利率は損害賠償請求権が生じた時点(上の例では事故時)の法定利率によると定めました(417条の2、722条1項)。

井奥圭介

(その9)債権法改正②「時効(その2)」

2021年1月7日

 今回は、前回に引き続いて、民法の債権法の改正のうち、時効に関する改正についての説明(その2)です。

1 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

 例えば、自動車で交通事故を起こして人をケガさせたり、ひどいと死亡させてしまうことがあります。また、医師が手術でミスをして、患者に障害が残ったり、場合によっては死に至らしめることもありえます。

 このように、不法行為(交通事故の場合)や契約上の債務不履行(医師が医療契約にもとづいて手術をする場合)によって人の生命や身体が侵害された場合は、被害者を保護する必要性が強く、また、被害者は、通常の生活を送ることも困難な状況に陥り、時効完成を阻止する措置を速やかにとることも出来ません。

 そこで、このような場合に被害者に発生する損害賠償請求権については、消滅時効期間を長期化する観点から、それが債務不履行にもとづく場合は、権利を行使することができるときから10年という一般の時効期間を20年に延長し(167条)、不法行為にもとづく場合は、旧法では損害及び加害者を知った時から3年とされていた時効期間を5年に延長しました(724条の2)。

2 長期の権利消滅期間

 旧法724条後段には、不法行為による損害賠償請求権は不法行為の時から20年を経過した時に消滅するという規定があり、この規定の性質について、最高裁は、消滅時効ではなく、「除斥期間」を定めたものだとしていました。除斥期間は、消滅時効と違って、①時効の中断や停止の規定が適用されないため、期間の経過による権利の消滅を阻止できず、また、②消滅時効であれば、その適用に対して信義則違反や権利濫用に当たるとの反論ができるのに対して、除斥期間ではそれができないと解されており、被害者保護に欠けるという批判がありました。

 そこで、改正法は、この長期の権利消滅期間は、除斥期間ではなく、消滅時効の期間であることを明記しました(724条2号)。これにより、被害者は、加害者に対する損害賠償請求権の時効による消滅を防ぐための措置をとることが可能になり、また、加害者からの消滅時効が完成したとの主張に対して、それは信義則違反や権利濫用に当たるので認められないという反論をすることが可能になりました。

井奥圭介

pagtTop