法律よもやま話

(その20)除斥期間の壁を破る

2024年8月26日新着

1 今年の7月3日、最高裁判所は、旧優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術を強制された人たちが国に損害賠償を求めた裁判で、旧優生保護法が憲法に違反すると判断し、国に原告らに対する損害賠償を命じる判決を言いわたしました。このことはニュースで大きく報じられましたので、ご存知の方は多いと思います。

2 問題にされた旧優生保護法の規定は、「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的の1つとして、精神障害や知的障害などがある人について、本人の同意無しに不妊手術を行うことを認めるという人権蹂躙も甚だしいもので、これが生命・自由・幸福追求の権利の尊重を定めた憲法13条や法の下の平等を定めた憲法14条に違反すると判断されたのは当然のことです。
そうであれば、この法律にもとづいて不妊手術をされ子供をもつことが出来なくなるという被害を被った人たちに対して、憲法違反の法律を作り適用した国が損害賠償をするのも当然のこととなるはずです。

3 ところが、これまでの下級審(地裁、高裁)の判決では、必ずしもそうはなっていませんでした。それは、改正前の民法724条に、不法行為の時から20年を経過したときは損害賠償請求権は消滅するという「除斥期間」を定めた規定があったため、多くの裁判所は、それを適用して、不妊手術がされた時から既に20年以上が経過しているので、損害賠償請求権は消滅していると判断したからです。

4 しかし、こんなにひどい人権蹂躙を国が行っているのに、ただ期間が経過したというだけで被害者が賠償を受けられなくなるというようなことを認めていたのでは、“人権の砦”とされる裁判所の存在意義が失われてしまいます。そこで、下級審の中にも、このような場合に「除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」という理由で除斥期間の適用を制限し、賠償を認める判決が現れるようになりました。
今回の最高裁判決は、そのような下級審の判断の流れに沿って、除斥期間の適用を制限したもので、これで裁判所の面目はかろうじて保たれたと言えます。

5 しかし、この除斥期間の適用が問題になっているのは旧優生保護法のケースだけではありません。私が弁護団の一員として取り組んでいる水俣病の裁判でも、被告(国など)側はこの除斥期間の適用を主張しており、既に判決が出された大阪地裁と新潟地裁は除斥期間の適用を否定したのに対して、熊本地裁は適用を認め、判断が分かれています。

6 被害者側の事情を問わず20年という期間の経過だけで権利を失わせる除斥期間の規定は、国会でも問題にされ、令和2年から中断や停止等を認める時効の規定とする法改正が行われています。
水俣病の被害者が、この除斥期間の壁を破り、正当な賠償を受ける日が早く来ることを願うものです。

井奥圭介

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