法律よもやま話

(その6)相続法改正②「遺言の利用の促進」

2020年1月9日

                                                    
  平成30年7月の国会で決まった相続法改正の3つのポイントのうち、今回は、2つ目のポイントである遺言の利用の促進についての説明です。
  遺言の利用を促進するために、ⅰ自筆証書遺言の方式緩和、ⅱ遺言書保管制度の創設、ⅲ遺言執行者の権限の明確化、などの改正が行われました。

(1) 自筆証書遺言の方式緩和
    遺言書には、大きく、公証人に作成してもらう公正証書遺言と遺言者が自分で作成する自筆証書遺言の2つの方式があります。
    公正証書遺言は、書面は公証人に作成してもらえ、また、その有効性についても公証人に公証してもらえるというメリットがありますが、作成するには公証人との打ち合わせや公証役場に出頭することが必要があり、また公証人の手数料がかかる等のデメリットもあります。
    その点、自筆証書遺言は、一人で作成でき、費用もかからないというメリットがありますが、従来は、全ての内容を自書しなければならないこととされていたため、相続財産中に、例えば多くの不動産や預金などがあった場合は、その財産目録を手書きで作成するのに手間がかかるという問題がありました。
    そこで、改正法では、財産目録の各頁に署名押印することを条件に、財産目録をパソコン等で作成したり、不動産の登記事項証明書や預金通帳のコピーを添付することでもよいとされました。
    この改正は昨年の1月13日から既に施行されています。

(2) 自筆証書遺言書保管制度の創設
    公正証書遺言の場合は、作成した公証役場に保管され、遺言者が死亡し相続が開始した時には、相続人は、遺言書検索システムにより、全国どこの公証役場からでも書遺言の有無を調査することができます。
    これに対して、自筆証書遺言の場合は、従来は、そのような公的な保管制度はなく、遺言者が自分で保管するか信用のおける人に預けるなどする必要がありました。しかし、それでは、遺言者が死亡した後に遺言書の存在が顕かになるか不確実であり、せっかく遺言書を作成した遺言者の意思が生かされない事態にもなりかねません。
    そこで、法務局における遺言書の保管等に関する法律という新たな法律が制定され、法務局に遺言書保管所を設け、そこに自筆証書遺言を保管することができるようになりました。遺言者から保管の申請があれば、法務局の担当官が、遺言書の方式を一定程度審査した上で保管し、相続人等から請求があれば遺言書保管事実証明書を交付します。これによって、相続人等が自筆証書遺言書の存在や内容を知る機会が確保されることになります。
    この改正は今年の7月10日から施行されます。

(3) 遺言執行者の権限の明確化
    遺言者が遺言書で遺言執行者を指定したり利害関係人からの請求にもとづいて家庭裁判所が遺言執行者を選任することがありますが、旧法では、この遺言執行者の地位や権限等について不明確な点がありました。
    そこで、改正法では、遺言執行者には任務を開始した時点で遺言の内容を相続人に通知する義務があるとされるとともに、遺言執行者の一般的な権限として、遺言の内容を実現するために遺言執行に必要な一切の行為をする権利を有することが明らかにされました。
    そして、遺言書で遺産を誰かに与える遺贈がされた場合にそれを履行する権限と義務は遺言執行者だけが有すること、遺言執行者は遺言にもとづいて単独で遺産の不動産についての登記を行えること、遺言書で預貯金を特定の相続人に相続させることにされている場合は遺言執行者がその預貯金の払戻しや解約をできること、遺言執行者は自らの責任で復代理人を選任できること、などが定められました。
    これらの改正は去年の7月1日から既に施行されています。

井奥圭介

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