法律よもやま話

(その7)相続法改正③「相続人を含む利害関係人の実質的公平」

2020年4月9日

平成30年7月の国会で決まった相続法改正の3つのポイントのうち、今回は、3つ目のポイントである相続人を含む利害関係人の実質的公平についての説明です。

関係者の実質的公平をはかるために、(1) 相続開始後遺産分割終了前に遺産が処分された場合に関する規律や、(2) 相続人以外の親族が被相続人の療養看護等の貢献を行った場合にその者に相続人に対する金銭請求を認める制度が設けられました。

 

(1) 相続開始後遺産分割終了前に遺産が処分された場合に関する規律

 

被相続人が死亡し相続が開始された後、遺産分割が終了するまでに、遺産が処分されることがあります。例えば、父親の生前に父親のキャッシュカードを預かっていた子が、父親の死亡後すぐに銀行に行き、そのキャッシュカードを使って父親の預金を引き出してしまったというような場合です。

改正前の民法にはこういう場合にどうするかということを定めた規定はなく、他方で、遺産分割は遺産分割時に実際に存在する遺産を共同相続人間で分配する手続であるというのが伝統的な考え方でしたので、処分された遺産は遺産分割の対象からはずし、残りの遺産の範囲で分割するという取扱いがされていました(もっとも、遺産を勝手に処分することは、他の相続人に対する不法行為になりますので、他の相続人は勝手に処分した相続人に対して損害賠償請求等をすることは可能ですが、それには裁判を起こす必要がありました)。

そこで、改正民法は、新たに906条の2という規定を設け、その1項で、共同相続人全員の同意があれば、相続開始後に処分された遺産についても、遺産分割の対象とすることを認めた上で、2項で、遺産を処分したのが共同相続人である場合は、その他の共同相続人の同意があれば、処分された遺産を遺産分割の対象に含めることができることにしました。

これにより、前記の事例では、子が引き出した預金も遺産の総額に加えて各相続人の相続分を計算し、預金を引き出した子はその預金を取得したことで既に自らの相続分を取得したものと扱うことができ、別に裁判を起こすまでもなく、公平な遺産分割が実現できることになったのです。

 

(2) 被相続人の療養看護等の貢献を行った親族に相続人に対する金銭請求を認める制度

 

例えば、被相続人が、生前に病気のため病院に長期入院しなければならなかったところ、自宅で献身的に看護する者がいたため、入院せずに済み、その結果、遺産が入院費用の支払いのために減少するのを免れたというような場合があります。

このように被相続人に対して療養看護等の貢献をした者が遺産から分配を受けることを認める制度として寄与分の制度がありますが、これは相続人にしか認められないため、例えば、相続人の配偶者が被相続人の療養看護に努めたことにより被相続人の財産の維持や増加に寄与しても、遺産の分配に与れないという不公平が生じます。

そこで、改正民法は、特別の寄与の制度を新設し(1050条)、被相続人の親族で相続人でない者が被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合には、相続人に対して寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求できるようにしました。

特別寄与者が特別寄与料を請求するには、まずは相続人との協議になりますが、協議が整わない場合は、家庭裁判所に対して、協議に代わる処分を請求することができます。ただし、この請求は、特別寄与者が相続の開始(被相続人の死亡)及び相続人を知った時から6ヶ月以内及び相続開始時から1年以内にする必要があります。

井奥圭介

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