私と囲碁 | 2015年9月24日
作家吉川英治の座右の銘に「我以外皆我師」という言葉がある。また、藤沢秀行師も「3歳の童子たりとも導師である」と述べている。いずれも人生における謙虚な「学びの精神」こそ成長と向上の要諦であることを示す言葉である。囲碁の道も例外ではなく、我が師は私以外のすべての人と言っても良いのだが、それではあまりに無限定なので、ここでは、私がこれまでに受けた指導碁の対局数を基準として10名のプロ棋士を私の師匠として紹介したい。
私の書斎には400局を越える指導碁の棋譜が眠っている。若いころには対局直後や帰宅後に自分で赤青鉛筆で記述したものだが、最近はデジカメやスマホに頼らなければ再現は難しい。このうち300局程度はパソコンのデーターファイルに入力しているので、いつでも見ることができる。昭和41年(1965)から約50年間の集積の賜物であり、我ながら何時の間にこんなに溜まったのかと驚いている。その1枚1枚に疑問手や失着に対する師匠たちの指摘やたまの好手への評価が記載され、なによりの勉強のよすがとなるものである。また、あの時代にはどの程度の棋力だったかを知ることができる貴重な私の宝物である。なお、全局通じての勝率はほぼ2割程度であった。
さて、最大の局数はやはり昭和40年代から50年代に師事した橋本誼9段で、5子から2子局での100局を越える。次いで50年代から平成年間まで「爛柯」の研修会で3子・2子局で指導を受けた石井新蔵9段の棋譜が約50局、そして本田邦久9段と石井邦生9段の約40局が続く。20局を越えるのは、円田秀樹9段、白石裕9段、吉田美香8段、10局以上には坂口隆三9段、長崎裕二5段、古家正大4段が連なる。以上合わせて約350局となる。この10名が私の「師匠」として特別に感謝の念を捧げる方たちである。これらの方たちは、いずれも私が参加してきた友人知人の定例碁会での師範であり、今後折に触れてそれぞれのエピソードなどを紹介したい。
不肖の弟子にとって、この豪華な師匠たちの指導に十分に応える上達ができなかったことにただ忸怩たる思いであるが、少なくとも囲碁の深奥な尽きせぬ魅力を存分に味わうことにより人生を豊かなものと実感することができたことに満足している。(続)
*上掲の棋譜は、爛柯研修会での石井新蔵先生との指導碁(1998年5月16日、白:石井9
段、3子:赤沢、243手まで黒1目勝ち)(続)