事務所便り

投稿者:赤沢敬之

心温まる贈り物

| 2022年5月9日

千里南公園(撮影:赤沢敬之)

 新年年明け早々、自宅に現金書留封書が届いた。心覚えもなくなにかの相談の謝礼金なのかと思い、差出人を見るとKY(KK)とある。

 KK君は高津高校の同学年でクラスは違ったが気の置けない友人だった。しかし卒業後70年間、同君は同窓会にはあまり出席したことがなく、なにかの相談で20年か30年前に事務所に見えたことだけがかすかな記憶に残っていた。

 文面を開くと、「私はKKの長女ですが、生前父より昔赤沢様より5万円を借りたことがある、とても助かった、返さなければと聞いたことがあります。当時の私はなぜ行動しないのかと思っていましたが、自分も歳を重ね、気持ちはあっても一歩を踏み出せないということを理解ができるようになりました。 先日赤沢様の年賀状でご住所が分かりましたので、突然で不躾ではございますが父の思いを継ぎお返し致したく送らせて頂きます。当時とは価値が変わっていて申し訳ありませんが、お受け取り頂ければ幸いです」とのことである。

 一読して、そんなことがあったかなと記憶を辿ったが思い出せない。そのまま受け取るのも気が引けるので、4,5日後、記載の電話番号に電話をしたところ、KK君は昨年8月に亡くなり、お母様も2年前に亡くなっていたため、近くに住むYKさんが面倒を見ておられたようだった。お母様も生前「あのときは助かった」と話されていたとのこと。

 お話を聞き、3人の方のそれぞれの思いを受け止めることにして、有難く頂戴することにした。KYさん「これでホッとしました」と言われたが、私も年始早々「心温まる贈り物」を頂いたほのぼのとした気分が今なお続いている。

(ニュースレター令和4年GW号より)

赤沢敬之

新年ご挨拶

| 2022年1月29日

日の出〜鳴門から淡路島を臨む

 

明けましておめでとうございます。新しい年を迎え、所員一同今年も心を新たに仕事に取り組みたいと念じています。どうかよろしくお願い申し上げます。

 さて、過ぐる年は、前年に引き続き新型コロナウィルスの全世界への感染拡大による社会・経済・生活への計り知れない被害をもたらした1年でした。そしてその勢いは昨年末にやや沈静化したのも束の間、異種株オミクロンの発生により新年度の第6波が懸念される状況です。

 こうした中で、私たちの世界は、地球温暖化による自然災害の頻発や格差拡大と貧困化の増大、独裁権力者の横暴と戦争の恐怖など負の言葉が数多く並びます。それだけに安全・安心の平和な世界の実現に向けて、私たちはそれぞれの立場や能力を生かして力を尽くすべき時だと思います。

 私事にわたりますが、私は昨年6月、日弁連から「法曹在職60年表彰」を受けました。

 

 

「人権の擁護と社会正義の実現を使命としてたゆまざる努力を重ねてこられまた司法制度の改善発展のため多大なる貢献をされました」との表彰状にふさわしい活動をしたとはとても言えませんが、60年もの間、少なくとも弁護士の使命を果たそうとの思いを常に自戒しながら行動を続けてきたことは確かでした。残り僅かな余生もこの心掛けを守り、人々のために寄与できればと念じています。

 皆様方のご健勝ご自愛をお祈りし、新年のご挨拶といたします。

二〇二二年 元旦 (弁護士 赤沢敬之)

(ニュースレター2022年新年号より)

赤沢敬之

コロナ爆発と五輪

| 2021年9月3日

 昨年2月から世界を覆い尽くした新型コロナウィルスの感染拡大は、約1年半を経過した今も留まるところを知らず、世界の感染者が2億人を超え、わが国でも既に100万人を突破し、医療体制の崩壊が現実のものとなっています。東京を中心に発せられた緊急事態宣言の危急時に無理やり開催した無観客の東京五輪が8月8日に幕を閉じ、続くパラリンピックが、現在行われている最中です。

 1年延期の後のコロナ拡大の中、政府や東京都は、医療専門家や国民の多数の中止を求める声を無視し、迷走を重ねた結果IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長などの「五輪とコロナは無関係」との「天の声」に従い、「安心安全」の一語を繰り返しつつ、何とか無観客の開催に到りましたが、果たしてこの「五輪」は今後どのように評価されるでしょうか。

 私も、この危急下に競技に参加した世界のアスリート達の苦労や実技には多少の興味を覚えましたが、連日のテレビやマスコミの熱狂を煽るメダル獲得競争や開会式・閉会式の報道には、「異次元の世界」の出来事のように漫然と眺めるだけでした。

 この2年近くの私たちの日常生活は、コロナとの終わりなき戦いの中で、マスクの着用、3密の回避、不要不急の外出自粛、種々の会合の中止などが習慣化した平板な日々の連続で、人との繋がりが薄れゆく毎日でした。平板な日は進行が加速度的に早く、貴重な時間がどんどん切り取られる思いですが、恐らくはしばらくの間は「コロナとの共存」の日常が新たな生活様式になるのではと予感します。そのためには、「自助第一」から脱却し公的支援策の確立を本位とする政治体制を作ることが必要です。そして、「安全安心」の一つ覚えの繰り返しだけで「感染者の自宅療養」を医療政策とする現政権やこれを支える関係者の責任を問い続ける第一歩が今秋に行われる衆議院議員選挙だと考えます。

 イタリア・ルネサンスはペストという大災厄の苦難を乗り越えた末に花開いたといわれますが、我が国もこのコロナの厄災を乗り越え、希望に満ちたルネサンス(再生)を成し遂げることを期待してやみません。

(ニュースレター2021年夏号より)

赤沢敬之

新年ご挨拶

| 2021年1月18日

東大寺大仏殿

明けましておめでとうございます。新しい年を迎え、所員一同今年も心を新たに仕事に取り組みたいと念じています。どうかよろしくお願い申し上げます。

 さて、過ぐる年は、新型コロナウィルスの全世界への感染拡大による社会・経済・生活への計り知れない被害をもたらした1年でした。そしてその勢いは今なお収束どころか増大の一途を辿っています。今年は、コロナ対人類の対決をどのように決着させるかという重大な年になりそうです。14世紀中頃ヨーロッパで猛威を振るい約2500万人もの死者を出したという黒死病(ペスト)の大流行や、約1世紀前の全世界の死者5000万人というスペイン風邪の蔓延の例を繰り返すことのないよう願い、市民としてなすべきことを果たさねばと思います。

 そして国内では、コロナ騒動の渦中で菅内閣が安倍政権を引き継ぎました。良い仕事をしてくれることを期待したいものですが、その菅政権の最初の仕事が、学術会議の推薦名簿から政府の施策に批判的な6名の学者の任命拒否であったことは驚きと公憤を禁じ得ませんでした。組織改革の必要性に関しては種々議論があるものの、任命拒否の理由について「回答を差し控えます」の繰り返しや論点のすり替えでは、学術会議法違反や「学問の自由」「思想の自由」侵害という民主主義の根幹を蔑ろにするものと言わざるを得ません。「モリ・カケ・桜」問題で権力の私物化を批判された前政権の悪弊をも承継するものであり、法律家の一人として見過ごすことは許されないと痛感しています。

 一方、明るい話題といえば、小職の孫たちも夢中で読んでいるマンガ「鬼滅の刃」ブーム。残念ながら私自身は未読ですが、ノスタルジーあふれる大正時代の鬼退治の話だそうで、マンガも映画も異例の大ヒット、今やコロナ禍で喘ぐ日本経済の救世主とも言われているそうです。一つの事象が社会を動かす好例といえましょうか。

 あれやこれやでこの新年は、試練の年となりそうですが、マスク常用や過密を避け無用の外出自粛などの日常生活の不便に耐えながら、市民の権利を守る職務を誠実に全うしたいと念じています。

二〇二一年 元旦 (弁護士 赤沢敬之)

(ニュースレター2021年新年号より)

赤沢敬之

新年ご挨拶

| 2020年1月24日

比叡山律院

 明けましておめでとうございます。新年を迎え、所員一同今年も心を新たに仕事に取り組みたいと念じています。どうかよろしくお願い申し上げます。

 さて、昨今の世界的な傾向は、社会の分断化と敵対化、貧富の格差の固定と拡大など人々の平穏で安全な暮らしが脅かされる事態が日々進展しています。それだけでなく地球温暖化による環境問題が自然災害を増幅させる一方、核兵器や原子力発電事故の脅威もいつ人類滅亡の危機を呼び起こすのかと憂慮されます。

 また、国内においても、国民の代表たるべき政権与党が、権力の集中を笠に着て、税金の私物化にとどまらず、公文書の隠匿、廃棄などの所業を繰り返しつつ、軍事力を明記する「憲法改正」の旗を振るなど、平和主義・民主主義・基本的人権の破壊の危惧さえ感じさせられます。
いまや世界全体が地球規模ひいては宇宙規模の憂慮すべき課題に、人類一丸となって挑戦すべき事態と思わざるを得ません。

 こんなことを考えている時、昨年12月1日に大阪城ホールを埋め尽くした「一万人の第九」をホール・アリーナで聴く機会ができました。私の長男秀行、妻と次女、その長男(小6)に加え千葉在住の長女が遠路合唱に出演したのです。

 

 

 ベートーヴェン作曲の第九交響曲(1824年作)は、高校生時代からよくレコードで聴いていました。

受験勉強の傍ら愛読していたロマンローランの大河小説「ジャン・クリストフ」のモデルと言われるベートーヴェンの苦闘と栄光の生涯を思い描きつつ、勉強に拍車をかけたことを回想し、佐渡裕氏指揮の熱演に聴き入りました。

 

一万人の第九本番前の様子(大阪城ホール)

 

 いくつかの前座のプログラムのあと、壮大な音響から始まる煉獄の暗夜行路を示唆する第1楽章から第2・3楽章「天上の音楽」の対峙を経て、いよいよ最終第4楽章「歓喜の歌」の大合唱。

フリードリッヒ・フォン・シラーの詩(1785年作)を元にした「おお友らよ、これらの調べではなく、もっと心地よい、もっと喜びに満ちた調べに声を合わそう」という朗々としたバリトンの独唱に始まります。

 そしてこの第一声により、これまでの音楽に別れを告げ、新たな音楽、ベートーヴェンが求め続けていた理想の世界を歌う1万人の大音声が場内に響き渡ります。

 「すべての人は兄弟になる」

 「抱き合え、幾百万の民よ」

 「この口づけを全世界へ」

 「星空の彼方に愛しい父が住まう」

と理想の楽園に誘う調べに、一万人の合唱団に合わせ、客席の4千人の聴衆も一体となって「歓び」の世界を謳歌します。

 私も、フィナーレまでの演奏中、時のたつのも忘れ合唱に唱和し、感動を抑えることができませんでした。

 これまで度々聞いた「第九」とは違った次元で冒頭に記した現在の世界・国内の状況を思い浮かべつつ、今こそこの閉塞状況の改善にこのベートーヴェンの精神を生かしたとの思いに駆られたものでした。

 以上新春を迎えての雑感です。(弁護士 赤沢敬之)

(ニュースレター2020年新年号より)

 

赤沢敬之

事務所の年輪

| 2019年5月20日

去る4月1日、平成天皇の退位と新天皇の就位に伴う新元号が発表され、5月1日から「令和元年」が始まることとなった。

元来、元号は単なる時間の区切りを表すのではなく、中国の紀元前の前漢時代の武帝が統治の道具として使い始めたもので、わが国も「大化」に始まり、明治以降は「一世一元」の制度として国民統治の機能を果たしてきたが、国民主権の現憲法下においてもその仕組みを維持しつつ、そうした意味合いを払しょくした一定の時の流れいわば「時代」を象徴する道具として活用されている。

公文書では、時の表現として元号が使用され、国際化時代の現代では西暦の表示も併用されている。時の政府の民意無視と復古への憧れが際立つ昨今の政治の流れにおいて、新元号が発祥の時代への里帰りを象徴するものとして利用されないことを強く期待するものである。

 さて、そうした意味で、「平成」から「令和」への移行に際し、私たちの事務所の「年輪」を語っておきたい。

 私が、事務所創立者の山本治雄先生の事務所に入ったのが、昭和36年(1961)4月、司法研修所を出たばかりの「苗木」であった。修習の頃、弁護教官から、アメリカの弁護士の理想的なモデルとして、「仕事は自由に、暮らしは不自由ではないが、莫大な遺産は残さない」と聞かされたことがあり、これをモットーとして出発して以来、樹齢58年の年輪を数えた。元号を適用すると、昭和時代28年、平成時代30年となる。

思えば、高度成長期からバブル崩壊の前半期から停滞と格差拡大、分断の後半期に分かれるが、昭和時代には、昭和43年(1968)から辻公雄弁護士、同50年(1975)から三木俊博弁護士、同56年(1981)から河村利行弁護士が、それぞれ6,7年間事務所に在籍し、また昭和62年(1987)から後半の平成時代30年間を井奥圭介弁護士が事務所を支えてくれた。そして、大学駒場寮で同室であった浦島三郎元裁判官が平成18年(2006)に入所し現在に至る。 

いずれの弁護士も個性豊かで、理論派と実践派という傾向の違いはあっても、自由闊達な仕事ぶり、徒に金銭欲に走らない事件処理や弁護士会活動など社会的活動を通じて、事務所の年輪だけでなく姿形のよさを保持してくれたことに感謝したい。

これから始まる「令和」の時代に、果たして事務所の年輪と姿はどのようになるのか、私も生涯現役の覚悟で努力を重ねたいと念じている。

(ニュースレター平成31年春号より)

赤沢敬之

「振り込め詐欺」にご用心!

| 2016年4月4日

 去る3月29日のことである。仕事を終え夜の10時ごろ帰宅したところ、妻から「秀行がインフルエンザに罹ったのか高熱を発し、明日病院に行くとの電話があった」という話を聞いた。秀行というのは同じ事務所で行政書士の仕事をしている長男のことだが、緊急の連絡先として病院に実家の電話番号を教えておくとも話していたとのことだった。

 当日私は、朝から宝塚の関係先の会社に出かけ、事務所に戻ったのが午後6時前。秀行の予定表には4時前に外出してどこかの会議に出ていると記載されており、1日顔を合わせなかったので、夕刻以降に発熱したのかなと思い、夜も遅いので様子を見ることにしてその日は連絡をせず終わった。

 翌30日の午前11時過ぎ、出勤しようとしていた頃、妻が「秀行から」といって受話器を渡すので、電話に出て「病院の診察はどうだったか」と聞くと、「インフルエンザではなかった。熱の原因は声帯に病原菌が入り抗生物質の薬をもらった。1週間飲んで効果がなければ手術しなければならないと言われている」とガラガラ声で話す。確かにその声は秀行と言われればそのようにも聞こえる。「今はどこから電話しているのか」と聞くと、「大問題が起きて急遽飛行機で東京に来ている」との話である。「熱を出して東京とは一体どういうことか」「病院はどこなのか」と尋ねると「東京・・」と言ったまま電話が切れてしまった。

 これはおかしいと思い、「LINE」のメールで秀行に「電話が切れて状況がよく分からん。熱を出して東京とはどういうことか」と簡単な顛末を送る。すると、案の定、「おー来ましたか、オレオレ詐欺!なるほどそういう手を使うわけですな」と早速の返信。妻は「声は変わっていたが確かにヒデの声だった」と言っていたと伝えると、「詐欺電話にひっかからないようお母さんにもご注意あれ」ということで、一連の「騒動」は終わった。

 「振り込め詐欺」が新聞を賑わせて久しいが、犯人の手口も益々巧妙を極め高齢の被害者はなお後を絶たないようである。昨27年度の警察庁の統計によれば、認知件数は全国で1万3828件(前年より約90件増)、被害総額476億円(前年より89億円減)という。「振り込め詐欺」には、①成りすまし(オレオレ)詐欺」、②架空請求、③融資保証金詐欺、④還付金詐欺の4類型があるとされ、①がやはり多いようである。

 今回の犯行は、用意周到に前夜に「高熱」「声変わり」の伏線を張り、翌日に「東京に急遽出張」という「緊急事態」を演出し、おそらくは「手術費用」「大問題の解決金」を振り込ませることを狙ったものと思われる。私も前夜の「高熱・インフルエンザの疑い」の電話のことは妻からの伝聞だったので、翌朝も事実として信じており、2度目の電話のあとしばらくは、それが一連のシナリオだったとは気づかず、ただ不審な電話だと思っていただけであった。
奇妙かつ貴重な体験をしたが、くれぐれも不審な電話には万全の警戒を怠らないよう願いたいものである。(平成28年4月1日)

赤沢敬之

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