事務所便り

カテゴリ:ニュースレターより

原告全員勝訴のノーモア・ミナマタ訴訟判決

| 2024年1月25日

昨年9月27日に、私が弁護団の一員として取り組んできたノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟について、大阪地方裁判所の判決が出ました。結果は、原告128名全員を水俣病と認め、被告の国、熊本県とチッソ㈱に、原告一人当たり275万円の損害賠償を命じる画期的なものでした。

ノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟判決後の記者会見で報告する筆者

このノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟は、主に昭和30年代から40年代にかけて熊本県や鹿児島県の不知火海沿岸で生活し、その後、近畿、中京や中国地方に移り住んだ人が、現地で生活していた当時にチッソの工場排水に含まれていた水銀に汚染された魚介類を食べたことが原因で水俣病にかかったことによる損害の賠償を求めて、大阪地方裁判所に起こした裁判です。

裁判で最も問題になったのは、原告らの病気の原因がチッソの流した水銀だったかどうかという因果関係の問題でした。なにしろ、原告らがチッソの水銀に汚染された魚介類を食べて水俣病にかかったのは今から40年以上前のことですので、そのことを、今、直接証明することは不可能です。

そこで、我々弁護団は、“疫学的因果関係”という考え方を採用すべきであると主張しました。“疫学”というのは、もともとは病気の原因を明らかにしてそれに対する対策を立てることを目的とする学問ですが、これを公害裁判の因果関係の立証に応用したのがこの“疫学的因果関係”の考え方です。

水俣病は、“四肢末梢優位の感覚障害”と言って、四つの手足の末端にいくほど感覚がにぶくなるという症状が特徴ですが、そうした症状がある時期に不知火海沿岸で生活していた人だけに高い割合で見られる、だとすれば、その原因は、そうした人だけに共通の事情つまりチッソの水銀に汚染された不知火海産の魚介類を大量に食べたこと、それ以外には考えられない、したがって、原告がその時期に不知火海産の魚介類を食べ四肢末梢優位の感覚障害を示しておれば、その原因は原告が食べた不知火海産の魚介類に含まれていたチッソの水銀だと考えるべきである、と主張したのです。

大阪地裁は、この“疫学的因果関係”の考え方を全面的に認めました。そのことが、原告全員勝訴の判決を導く上で大きな力になったのです。

法廷で判決の言い渡しを聞いた原告の皆さんは、長年の苦労が報われたと、涙を流して喜びました。裁判所も捨てたもんじゃない、司法は生きている、と思えた瞬間でした。

しかし、残念ながら、この画期的な判決に対して被告らは控訴し、今度は大阪高等裁判所で裁判が続くことになります。公害発生から70年以上経ってもまだ未救済の患者が存在する水俣病問題、早期の解決が強く望まれます。

引き続いてのご支援をよろしくお願いします。(弁護士 井奥圭介)

(ニュースレター令和6年新年号より)

井奥圭介

近況報告

| 2024年1月24日

せっかく寺社の多い奈良に住んでいるので、寺社巡りを始めました。

最初は、9月10日(日)に、自宅から一番近くにある名刹の法隆寺を訪ねました。

残暑の厳しい日でしたが、釈迦三尊像、百済観音像、玉虫厨子などの有名な国宝を間近に見られ、また、あらためてこの寺の寺域の広さを実感しました。(弁護士 井奥圭介)

(ニュースレター令和6年新年号より)

井奥圭介

新年ご挨拶

| 2024年1月23日

神奈川県・湘南江の島稚児ヶ淵から富士を望む(撮影:赤澤秀行)

明けましておめでとうございます。
新しい年を迎え、所員一同今年も心を新たに仕事に取り組みたいと念じています。どうかよろしくお願い申し上げます。

 この新年は、昨年から引き続くロシアのウクライナへの侵略戦争に加え、イスラエルのパキスタン自治区のガザへの大量虐殺戦争が世界の平和を乱し、また国内でも、物価高騰による生活水準の低下とこれに対する大企業の511兆円を超える内部留保の問題や、格差拡大の中での岸田政権の無策ぶり、さらには自民党各派閥のパーティー券販売による政治資金規正法違反の裏金作りなど、とても「明るい希望に満ちた新年」とは言えない状況です。
 このような年の初めに、私たち市民はどうすればいいのか。ひとりひとりが新しい時代を作っていく責任を負わされた年だと気を引き締めています。

 一方で私の近況はと言うと、昨年11月下旬、4年ぶりに開催された法曹囲碁大会に参加するため単身上京しました。大会前日に新幹線で東京へ。東京駅では昨年東京地裁に事務官として就職した孫の出迎えを受け、そのまま松戸市の長女宅に宿泊し、翌日の午前11時半から市ヶ谷の日本棋院で対局しました。
 私は団体戦A大阪チーム3名のトップとして、東京弁護士会、東京第二弁護士会、岡山弁護士会のチームと3局対戦。辛うじて3戦目に勝ちを収めましたが、対局中と帰りの新幹線で座りっぱなしだったためか、翌日以来腰痛を発症し、しばらくは歩行に苦労しました。やっと12月中旬にはほぼ回復しました。
 4年ぶりの東京は駅の地下や交通路線が相変わらず複雑でしたが、幸い長女と孫が観戦のため同行してくれて助かった次第です。

 本年2月には私も満88歳、米寿を迎えます。脊柱管狭窄症による足の痺れや左眼黄斑変性症など歳相応の不具合はありますが、なんとか毎日事務所に出て仕事ができることを感謝しています。しかし、残り僅かな人生を楽しむため、今年は事務所の運営を次世代の所員にバトンタッチしたいと考えています。
 どうか今後とも皆様方のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

二〇二四年 元旦  赤 沢 敬 之

(ニュースレター令和6年新年号より)

赤沢敬之

ニュースレター令和6年新年号をお届けしました

| 2024年1月22日

こんにちは!ニュースレター担当の赤澤秀行です。

先日1月1日元旦に弊所手作りニュースレター新年号(第16号)をお届けいたしました。
弊所のニュースレターはこれまで当事務所とご縁のあった方々にお送りしております。うちに来てないよ、という方はどうぞご一報ください。

今回は今年から新しく始まる終活セミナーのチラシも同封させていただきました。

月イチ無料相談会と同じく、毎月最終土曜日に開催します。定員は毎回1グループ6名までです。無料セミナーですので、無料相談会と同様、あなたの終活にうまく活用していただければと思います。

次号は令和6年5月にGW号をお送りする予定です。どうぞお楽しみに!

なお、「読者の広場」コーナーでは、投稿を募集しています。ニュースレターの感想やご意見ご質問どしどしお送りください。その他、俳句、川柳、似顔絵なんでもどうぞ!(*^^*)

赤澤秀行

近況報告

| 2023年9月12日

弁護団の一員とし9年にわたって取り組んできたノーモア・ミナマタ第2次近畿訴訟の判決がいよいよ9月27日に大阪地裁で言い渡されることになっており、今はそれに向けての準備に追われています。

私にとっては、酷暑の夏に続く“熱い秋”になりそうです。(弁護士 井奥圭介)

鹿児島、城山にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ニュースレター令和5年残暑号より)

井奥圭介

灼熱の夏 白浜行き

| 2023年9月11日

今年もまた、恒例の家族一同12名 (私夫婦、子3人と配偶者2人、孫5人) が8月10日から13日にかけて白浜の会員制マンションに出かけてきました。

毎年お盆前の白浜海岸の花火大会見物がメインイベントの一つなのですが、 今年は太平洋沖で発生し紀伊半島を目指して北上中の大型台風7号の進路と速度によっては、中止の可能性大で、 そもそも旅行自体ができるのかともどかしい日々でした。

しかし、幸いにも台風の進行速度が遅くなり、10日午後新大阪から特急「くろしお号」で無事白浜に到着、同夜、4年ぶりに開催された海上花火3000発の連射を楽しむことができました。

そして孫たちの海水浴やアドベンチャーワールドのイルカショー見物、 なによりも温泉でのくつろぎなど無事3日間を過ごし、13日に帰阪したのですが、この間台風はなおゆっくりと紀伊半島に向かい、ようやく8月15日未明に潮岬に上陸しました。

まさにスリルに満ちた自然との共生でした。(弁護士 赤沢敬之)

白浜宿泊先の玄関前にて

(ニュースレター令和5年残暑号より)

赤沢敬之

知られない善意

| 2023年9月8日

残暑お見舞い申し上げます。例年にも増して猛暑の夏が終わろうとしていますが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

さて、我々弁護士の仕事に「刑事弁護」と言って、犯罪を犯した(正確には、犯罪を犯した疑いをもたれた)人の処罰を少しでも軽くするために活動する分野があります。

私は、刑事弁護をそれほど多く手がけているわけではありませんが、弁護士会が運営している刑事当番弁護士に登録されているので、年に何件かは刑事弁護事件を受任することがあります。といっても、私に回ってくるのは、殺人などの重大事件ではなく、窃盗や傷害などの比較的機微な事件がほとんどです。その中でもかなりの頻度であたるのが覚せい剤を使用、所持することを罰する覚せい剤取締法違反の事件です。

6月のとある金曜日の当番日にあたった事件もそんな覚せい剤取締法違反の事件でした。被疑者(仮に「Aさん」とします)は四国出身の40代の男性、高校を卒業して地元で働いていましたが、田舎暮らしが嫌になり、25歳の時に大阪に出てきました。大阪では解体業の会社で働いていましたが、40歳の頃にリウマチを発症して働けなくなり、それからは自動車の窃盗等を生業にしていました。また、20代後半の頃から、覚せい剤にも手を出すようになりました。覚せい剤の特徴は中毒性が非常に強いことで、一度手を出すとやめられず、何度も使用を繰り返す人が多いのです。Aさんも、ご多分に漏れず、これまでに覚せい剤取締法違反で4回裁判を受けて、3回服役しており、最後に刑務所を出てから3か月も経たないうちにまた覚せい剤を使って逮捕されました。

私は、Aさんの国選弁護人に選任され、大阪近郊の警察署に勾留されているAさんへの接見を続けました。Aさんは罪は認めていましたので、裁判になれば実刑の判決が言い渡されるのは確実で、3年以上の懲役が見込まれました。そこで、私が警察で接見した際にAさんとする話は、今回を最後に覚せい剤と手を切れるのかどうかといったことが中心となりました。その点は、来る裁判でのAさんの量刑にも関わることでした。

しかし、Aさんは、これまでの4回の裁判で、その都度、裁判官の前で、もう二度と覚せい剤を使用しないと誓ったはずですが、それでも覚せい剤を使用し続けてきたわけですから、仮にAさんが「今回で最後にする」と言ったとしても、その言葉には説得力がなく、おそらく裁判官もそう思うでしょう。

そこで、私は、Aさんに、率直に、現在の心境を聞いてみました。そうしたところ、Aさんは、これまでの覚せい剤を通した人間関係がほとほと嫌になった、まだ間に合ううちに自分の人生をやり直したい、と言うのです。そして、どこで知ったのか、受刑者との文通を通して受刑者の更生を支援している団体や受刑者の就職先を紹介している雑誌などの名前をあげ、私に関係資料を集めて差し入れてくれるよう頼みました。

それらは私が名前を知らなかったものばかりでしたが、Aさんの熱心な依頼に応じて、そのうちの一つで、被疑者が勾留されている警察や拘置所まで面会に行き、被疑者の更生に向けて相談にのったりする活動をしているという団体に電話したところ、実際にAさんに警察まで面会に行ってくれることになりました。さらに、その団体は、出所後の犯罪者の自立訓練や生活訓練を行い、裁判で有利な証拠として使えるように、その団体が服役後の被告人の受け入れ先になることなどを報告書にして提出するというような支援活動も行っているということでした。団体の事業費は国からの補助や支援者からの寄付等でまかなわれているようですが、事業の性質上、金が儲かることは考えられず、純粋に薬物中毒者の更生を支援するという善意の目的で活動している団体のように見受けられました。

世の中に目を転じると、世界ではロシアのウクライナへの理由無き侵攻が続き、国内でも、中古車買い取り業者が顧客の車に故意にキズをつけて保険金を水増し請求したり、母親が自分の娘に食事を与えず入院させて保険金を受け取るなど、人間不信に陥りそうな悪意に満ちた事件ばかりがニュースに流れています。

しかし、その一方で、同じ社会の中には、このように、決してニュースで報道されることはないけれど、他人のために献身的に働いている人たちがいるということは希望をもたせてくれます。

Aさんには、自分の人生をやり直すために藁をも掴む思いで探しあてた団体につながり、その力を借りて何とか覚醒剤の呪縛から逃れられることを願うばかりです。そのために、私も、弁護士として、少しでも力になればと思っています。 (弁護士 井奥圭介)

(ニュースレター令和5年残暑号より)

井奥圭介

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