弁碁士の呟き

「弁碁士の呟き」余話 

| 2019年2月13日

 私の囲碁歴は1958年大学4年の頃に遡る。ざっと60年である。多忙な弁護士の仕事や弁護士会の活動の合間によく飽きもせず続けてきたものと我ながら感心せざるを得ない。現在日本棋院の免状6段であるが、歳を重ねるごとに囲碁の尽きせぬ魅力に取りつかれ、棋力向上への果てしない欲求とともに、できるだけ多くの人にこの魅力を伝えたいと願っている。4年前の事務所のホームページ開設の機会に「弁碁士」と称し、「私と囲碁」のコラムを掲載することとした。現在50話で中断しているが、近く再開の予定である。

 さて、ここで紹介したいのは、故中山典之日本棋院6段の「囲碁いろは歌」の一首である。

「いろは歌」は、すべての仮名文字を一度ずつ使って作る歌で、古来空海作と伝えられ日本人なら誰でも幼少時から口ずさむ歌だが、同氏は1994年発行の「囲碁いろは歌」で囲碁にまつわる「いろは歌」をなんと84首も作り、囲碁の文化的魅力を存分に披歴している。まさに棋士であり文士の面目躍如である。私がこの中でお気に入りは「神造歌」と題する次の一首である。

 「神造りぬる囲碁楽し 世に夢を得て幸多き 争う人も懸念せず 烏鷺笑む山は平和なれ」

 今、我が国の囲碁人口は、かつての1000万人台から激減し、近時の調査では250万人とも報ぜられている。「琴棋書画は君子のたしなみ」と称されてきた囲碁は、論理的思考力や大局観の訓練に役立つだけでなく、忍耐力、持続力を養い、また人との交わりにも大きな役割を果たすものである。世界への普及度は、中国、韓国を筆頭に70か国で4000万人に達する現在、江戸時代の日本において伝統的な文化資産として練り上げた囲碁の盟主の地位を復活させたいものと素人ながら願うこの頃である。

(ニュースレター創刊号より)

追記。改めてインターネットで見ると、中山6段、84首どころか生涯で千首以上のいろは歌を作られたそうだ。なんともはやである。

赤沢敬之

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