法律よもやま話

(その13)債権法改正⑥「売買」

2022年5月2日

 今回は、民法の債権法の改正のうち、売買についての説明です。売買に関してもいくつか注目すべき改正が行われましたが、最も重要な改正は売主の担保責任に関する改正です。

1 売主の担保責任とは
 売主の担保責任とは、売買契約にもとづいて売主が買主に納めた商品が完全なものではなかった場合に売主が買主に負う責任のことです。
 この売主の担保責任が問題になるケースとしては、例えば、(A)バナナを100本売ったうちの30本が腐っていた場合、(B)最高時速200キロまで出せるスポーツカーであるとして売ったのに170キロまでしか出せなかった場合、(C)500平方メートルの広さがある土地として売ったのに、実際には450平方メートルしかなかった場合、などが考えられます。

2 今回の改正のポイント
 売主の担保責任が問題になる場合について、改正前の旧法では、商品が特定物(当事者が物の個性に注目して売買した物)であるか不特定物(そうでない物)であるかで買主が請求できる内容に違いがあるとする考え方が有力でした。
 しかし、現代社会では、商品は大量生産され、不具合があった場合は、部品を交換したり代替品を用意したりして対応できるケースが多くなっています。また、問題になった商品が特定物なのか不特定物なのか区別が難しいケースもあり、そのどちらであるかで取扱いを分けることは合理的でありません。
 そこで、改正法では、商品が特定物であるか不特定物であるかにかかわらず、納付された商品が種類、品質や数量に関して契約内容に適合しない場合には、買主は売主に対して、①商品の補修、代替物の引き渡し等の履行の追完、②代金の減額、③損害賠償、④契約の解除、を選択して請求できるということに統一しました。
 以下、順番に説明します。

3 履行の追完
 買主は売主に対して、納付済みの商品の補修、代替分又は不足分の引渡しにより履行の追完を請求できます(562条1項本文)。例えば、冒頭のケース(A)では腐った30本の代わりのバナナを納品することを、ケース(B)では納品されたスポーツカーを200キロ出せるように修理することを請求できます。
 履行の追完の方法として、補修と代替物の引き渡しの双方が可能であるなど、複数の方法が選択可能なことがありますが(例えばケース(B)で、200キロ出せる同じ種類の別のスポーツカーがあり、それを納品することもできるような場合)、その場合には、まずは買主がどのような方法で追完するかを選択できます(562条1項本文)。それに対して、売主は、買主に不相当な負担を課すものでなければ、買主が請求したのとは異なる方法で追完することができます(ケース(B)の例で言えば、納品済みのスポーツカーの修理が容易で費用も安く済み、それで買主に特段の不利益もないような場合は、売主は修理で対応することができます)。

4 代金の減額
 買主が売主に対して相当の期間を定めて履行の追完をするよう催告し、その期間内に売主が履行の追完をしないときには、買主は納付済みの商品が契約内容に適合しない程度に応じて代金の減額を請求できます(563条)。
 履行の追完の催告が必要とされたのは、売主によって出来るだけ本来の契約内容どおりに完全な履行がされることが望ましいので、売主に履行の追完の機会を与えるためです。
 しかし、履行の追完が不能であるとき(冒頭のケース(C)の場合)や、売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示している時などには、売主に履行の追完の機会を与える必要がありませんので、買主は催告をせずに代金減額請求をすることができます(563条2項)。

5 損害賠償・契約の解除
 納品された商品の契約内容との不適合が売主の責任で生じた場合は、買主は売主に対して損害賠償を請求できます。この場合の賠償の範囲は、信頼利益(完全でない商品を完全なものと信頼したために買主に生じた損害)にとどまらず、履行利益(売買が完全に履行されていたら買主が得たであろう利益)に及びます。
 また、買主は、売主に対して履行の追完の催告をした上で、売買契約を解除することもできます。(以上について、564条)
 ただし、買主が4の代金減額請求権を行使した場合は、減額された代金に見合った商品が納められたものとみなされることになりますので、さらに損害賠償の請求や契約の解除をすることはできません。

井奥圭介

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