法律よもやま話

(その14)所有者不明土地に関する法改正 ①利用の円滑化

2022年9月2日

1 はじめに
 過疎化や核家族化の進行により、相続が発生しても相続の手続が行われず、その結果、所有者が不明の土地が増え、その総面積は、一説には、今や九州を超えていると言われています。こうした所有者不明の土地が増えると、民間の不動産取引にも、公共事業の実施にも、大きな支障となり、経済活動が阻害されます。
 そこで、政府は、この所有者不明土地問題に対処するため、令和3年4月21日に、「民法等の一部を改正する法律」と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」という二つの法律を制定しました。そこで目指されたものは、大きく、(1)所有者不明土地の利用の円滑化を図るための方策と、(2)所有者不明土地の発生を予防するための方策に分けられます。

2 所有者不明土地の利用の円滑化を図るための方策
 所有者不明土地の円滑かつ適正な利用の仕組みを整備するため、以下のような民法の改正が行われました。
(1) 土地・建物の管理制度の創設
 土地や建物の所有者の所在が分からない場合や相続人が不明の場合、現行の民法でも、不在者財産管理人や相続財産管理人の制度があります。
 しかし、これらの制度は、不在者や被相続人の全ての財産を管理する必要があり、管理人の負担が重くなり、また事務手続も煩瑣になるという問題があります。
 そこで、改正法では、個々の土地や建物について、裁判所が所有者不明土地・建物管理人による管理を命じる制度が創設されました(改正民法264条の2・8)。
(2) 管理不全土地・建物の管理制度の創設
 上記の所有者不明土地・建物管理制度では、所有者は判明していても適切な管理がされていないというような場合には対処できません。
 そこで、改正法では、所有者による土地・建物の管理が不適当であるため他人の権利や法律上の利益が侵害され、またはそのおそれがある場合は、裁判所が管理不全土地・建物管理人による管理を命じる制度が創設されました(改正民法264条の9・14)。管理不全土地・建物管理人は、裁判所の許可を得て、当該物件を売却することも認められています。
(3) 共有者不明の場合への対処
 土地や建物を複数の人が共有している場合に、共有者の中に連絡のつかない人がいると、共有物の利用に関する意思決定や共有関係の解消が出来ないといった問題が生じます。
 そこで、改正法では、共有者の一部に連絡がつかない人がいる場合に、裁判で、それ以外の共有者で共有物の変更や管理を行える制度が設けられました(改正民法251条2項、252条2項1号)。
 あわせて、その場合には、裁判で、連絡のつかない共有者の持分を他の共有者が取得したり、その持分を含めて共有物全体を第三者に譲渡できる制度が設けられました(改正民法262条の2、262条の3)。これにより共有関係の解消が進むことが期待されます。
(4) 遺産分割未了状態への対処
 遺産分割がされずに長期間放置されると、各相続人の具体的相続分(特別受益・寄与分)を裏づける証拠資料も散逸し、分割協議が困難になります。
 そこで、改正法では、そのような弊害を避けるため、相続開始から10年を経過した後は、相続人は、それまでに家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てていない限り、具体的相続分を主張することが出来ず、法定相続分に基づいて遺産分割を行わうことにしました(改正民法904条の3)。
(5) 隣地等の利用・管理の円滑化のための対処
 隣地との境界付近で塀や建物等を築造するのに隣地を使用する必要がある場合、現行の民法では予め隣人の承諾を得ることが必要との考え方が有力でした。
 しかし、これでは隣人に連絡がつかない場合は承諾を得ることが出来ませんので、改正法では、予め、使用の目的、日時、場所及び方法を通知する(連絡先が不明のため予めの連絡が出来ない場合は、連絡先が分かった時点で通知すれば足りる)だけで使用が認められることにされました(改正民法209条)。
 また、電気、ガス、水道等のライフラインの設置についても、事前に目的等を通知することにより、他の土地を使用できることが認められました(改正民法213条の2)。
(6) 施行期日
 以上の改正は、令和5年4月1日から施行されます。

井奥圭介

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