法律よもやま話

(その16)匿名で裁判が出来るようになりました。

2023年5月1日

1 はじめに
 犯罪やDVの被害者などが加害者に対して損害賠償を請求しようとすると、訴状に名前や住所の記載を求められますので、相手方からの報復を恐れて提訴を躊躇するケースがあります。そのような場合に、これまでは、匿名にするのは無理でも、住所については代理人弁護士の事務所の住所等を記載するというような便法がとられることがありました。
 そこで、今般、そのような被害者が裁判を起こし易くするため、訴状で氏名や住所を秘匿することを正面から認める民事訴訟法の改正が行われ、今年の2月20日から施行されています。

2 住所等秘匿制度の概要
 具体的には、犯罪やDVの被害者など、裁判を申立てる者の住所、居所や氏名が相手方当事者に知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生じるおそれがある場合、裁判所は、申立てにより、住所等や氏名の全部又は一部を秘匿する決定をすることができるようになりました(改正法133条1項)。
 ただし、この申立てをする時でも、申立人(「秘匿対象者」)は裁判所には本人が記名押印した書面(「秘匿事項届出書面」)により真の住所・氏名等を届け出なければなりません(改正法133条2項)。そして、裁判所がこの申立てを認める場合は、真の住所・氏名等に代わる代替住所、代替氏名を定め、以後、それがその手続において秘匿対象者の住所や氏名として扱われることになります(改正法133条5項)。
 秘匿の申し立てについての決定が確定するまでは、秘匿事項届出書面は秘匿対象者以外の者には非開示とされますが(改正法133条3項)、もし秘匿を認めないという決定が確定した場合は、この書面も相手方当事者が閲覧等出来ることになりますので、注意を要します。
 秘匿決定が出された場合は、秘匿事項届出書の閲覧謄写等が出来るのは秘匿対象者に限定されます(改正法133条の2・1項)。

3 関連する改正
 秘匿事項届出書面以外の訴訟記録にも秘匿事項やそれを推知できる事項が記載されていることがありますので、裁判所は、申立てにより、それらの秘密事項記載部分の閲覧謄写等が出来るのを秘匿対象者に限定することができます(改正法133条の2・2項)。
 また、当事者以外の第三者が訴訟記録の閲覧等をする場合もありますので、裁判所は、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生じるおそれがある時には、申立てにより、閲覧等の請求ができるのを当事者に限定することができます(改正法92条1項)。
 さらに、今回の住所等秘匿制度の新設は民事執行にも及び、損害賠償が認められた被害者が、加害者の銀行預金等を差し押さえて回収しようとした時に、債権者が住所等秘匿制度の適用を受けた場合は、銀行などの第三債務者は差押えの対象となった預金等を、直接債権者に送金する代わりに、法務局に供託し、債権者は法務局からその供託金の支払いを受ける供託命令の制度が新設されました(民事執行法161条の2)。

井奥圭介

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